2008年06月

農 の 勧め

6月14日は、情報社会学会で話をしていました。テーマは、「小規模農家向け安定的高収益農業の検討」。学会なので、論文としてまとめると、何かよくわからない難しいタイトルになってしまいます。
簡単に言えば、「小規模な、家族経営農家でも、きちんとした仕組みをITで支援すれば、農業で自立していく事が可能です」というものです。

食の安全が社会全体で注目されていますが、長期的に考えると、安全どころか食料そのものが足りなくなる時代が目の前に来ているわけです。国連の予想では、2050年前後には、地球の総人口が100億人前後になり、この総人口を養うためには、現在の地球全体の総食料供給量では足りないのです。
ところが、農地は増えるどころか減っています。中国は産業発達に伴い農地は減っていますし、バイオ燃料の関係で小麦やトウモロコシも減っているわけです。

このような問題を踏まえ、私の最近の最も関心のある研究テーマの一つが、「農」なのです。調べると、予想以上にITが貢献出来る内容が多く、内容的にも非常に面白いです。トマトを中心に、果樹、伝統野菜など、興味の範囲が広がっています。
農におけるIT活用としては、おそらく、大きく二つ、考えなければ行けない点があります。
まず一つ目として、従来のハードウェア偏重を改めるような貢献をソフトウェアが成し得るかという事です。従来の農分野の取り組みは、ハードウェアが主体となっており、非常にコストを要するものでした。農の革新を促進するためには、このコストを劇的に下げなければ行けない。それだけの価値を、ソフトウェアが供出できるのか。もちろん、ハードウェアを全く利用しないという事ではない。実際に食物を栽培するわけですから、ハードは必要です。最低限度のハードで最大限の効果を出すためのソフトは何かという事です。
もう一つは、人間の知に着目しながら、技術を否定しない事です。昨今の風潮として、従来の取り組みがうまくいかないと、「人間が直接取り組む事が素晴らしい」ということで、可能な限り人力に頼る傾向があるのではないでしょうか。農業で言えば、祖父やその前の時代から培われてきた、昔ながらの、作業の多くを人手に頼るという方向です。この方向が素晴らしいのは、どんな機械やシステムよりも、熟練した人間のほうが、自然環境や作物の変化に柔軟に対応できるからです。ただ、人間が出来る事には物理的な限界があります。また、経験知が少ない人の対応能力にも限界があります。技術やシステムを評価する事は必要ですが、それ自身を否定しては、今の時代ではやっていけないと思います。単価が非常に高い野菜となり、購入できる人はごく一部に限られるでしょう。産業として農を確立していくためには、やはり、技術は不可欠だと思います。

ITの専門家が農業? と、疑問を持たれる事も多いですが、上述のような点に留意して進めていくためには、既存の枠組みと違うところから進められると言う意味でも、ITが取り組むにふさわしい分野だと思います。


皆が嫌いなIT業界?

知人のブログを読み、いろいろと考える。

小野さんのブログである。
最近、有り難い事に、様々な企業の方とお会いし、様々な場でお話をさせていただく機会に恵まれている。ちなみに、お話をさせていただくというのは、講演をするという状況だけでなく、いろいろな議論をさせていただくというものが多数を占めています。。

消費財を研究開発販売している企業の方々、高齢者や障害者の支援をされている方々。
現場のリアリティを持つ方々の意見の強さ、そして気持ちよさを感じる日々である。一方で、IT業界は、私が教えているSFCに在籍している方々(学生、教員、もちろん私も含む)にとっても、いまいち、何を持ってしてIT業界というかという定義については明確な答えを持っていない人が多いが、それは、実際にIT業界の中で働いていない人に取り、IT業界における「現場のリアリティ」というものが、実感を持って感じられないからなのだと思う。

今回、小野サンが取り上げている、「大手メディアによるIT業界ネガティブキャンペーン」というのも、書いている記者の方が、IT業界のリアリティというものが実感を持って感じていないからなのではないだろうか。リアリティがあるということは、やはり、その業界で、実際に人にあって、IT業界で言えばシステムを構築するという作業を何らかの形で手掛けている(あるいは、その経験がある)方々である。抽象的な議論やメディア批評に従事しているのでは、分かり難いリアリティが、未だに、IT業界では実存しているのである。このリアリティを記事を書く側が実感しているか否かが、今回、小野さんが指摘しているような、記事の記述へと繋がっているのではないだろうか。

ちなみに、この、独自のリアリティがIT業界において実存している状況について、私自身は、少し批判的である。そのような状況が、IT業界を狭めていると思うし、私自身が良く問題視している、「IT業界と他業界との溝」の要因にもなっていると捉えているからである。